要約 碓井ら (2014)

茨城県北浦のヨシ帯と護岸帯での魚類群集構造の比較

碓井星二・加納光樹・佐野光彦

 

要約 ヨシは温帯から熱帯にかけて広く分布する抽水植物であり,世界各地の湖沼や河川において大規模なヨシ帯を形成している.ヨシ帯は湖岸の侵食防止や,水質浄化に役立つほか,魚類をはじめとする多くの生物に生息場所を提供し,生物生産の盛んな場であると考えられている.しかしながら,ヨシ帯が存在する平野部の湿地は,人間の経済活動や開発の影響を受けやすい場所であり,農地拡大や都市化による干拓,埋立て,護岸整備などによって,世界各地のヨシ帯は急速に消失しつつある.1960年代以降,日本各地のヨシ帯の面積も著しく縮小し続けており,このことが生物群集に多大な影響を及ぼしてきたと言われている.しかし,ヨシ帯の消失が魚類群集に及ぼす影響については,まだほとんど調べられていないのが実状である.そこで本研究では2009年と2010年の春から夏(4,6,8月)に,茨城県北浦の2地点のヨシ帯とそれに隣接する護岸帯で魚類群集の構造を比較した.その結果,種数と総個体数はほとんどの月でヨシ帯の方が多かった.このことから,護岸化によるヨシ帯の消失は,魚類の種多様性や総個体数の減少をもたらし,群集構造を変化させることが明らかとなった.ただし,優占種を種ごとにみると,モツゴ,クルメサヨリ,ヌマチチブなどの5種はヨシ帯で多く出現したが,一方,シラウオは護岸帯で多く出現したことから,護岸化による影響は魚種により異なることもわかった.

日本水産学会誌, 80: 741-752.2014年9月.

ヨシ帯OLYMPUS DIGITAL CAMERA

茨城県北浦のヨシ帯(左)と隣接する護岸(右)