要約 Shirai et al. (2018)

Reconstruction of the salinity history associated with movements of mangrove fishes using otolith oxygen isotopic analysis

Shirai K, Koyama F, Murakami-Sugihara N, Nanjo K, Higuchi T, Kohno H, Watanabe Y, Okamoto K, Sano M

耳石の酸素同位体比分析を用いたマングローブ魚類の移動履歴の推定

白井厚太朗・小山楓太・杉原奈央子・南條楠土・樋口富彦・河野裕美・渡邊良朗・岡本研・佐野光彦

 

要約 マングローブは熱帯や亜熱帯の潮間帯に生育する被子植物(特に木本類)で,大規模な群落を形成することが多い.東南アジアや沖縄などの熱帯・亜熱帯地方では,主に河口付近の汽水域にマングローブ林が発達している.マングローブ林が存在する水域(以下,マングローブ水域)には,多種多様な魚類(以下,マングローブ魚類)が生息し,それらの重要な生息場となっている.しかし,マングローブ魚類の移動や回遊については,まだほとんどわかっていない.これまで,マングローブ魚類の多くが通し回遊魚(川と海の両方で成長し,産卵は川と海のどちらかで行う魚類)であるといわれていたが,最近の研究では非回遊魚(海に回遊せず,生活史のほぼすべてをマングローブ水域内で完結させる魚類)もある程度存在する可能性が示唆されている.そこで,本研究では沖縄県西表島浦内川のマングローブ水域に優占して生息する魚類3種(アマミイシモチ,リボンスズメダイ,コトヒキ)について,耳石の酸素同位体比(δ18O)を調べることによって,各種が通し回遊魚なのか,それとも非回遊魚なのかを明らかにした.
 耳石には,魚類が卵から現在までに経験した生息環境の履歴が記載されている.このため,耳石の核から縁辺部までを分析することで,生活史を通した生息環境履歴を復元することが可能となる.本研究では,耳石のδ18Oを用いて,生息環境の塩分履歴を推定した.
 アマミイシモチ(18個体)とリボンスズメダイ(7個体)の成魚と稚魚において,耳石δ18Oを調べたところ,核から縁辺部までのレンジは前者で−5.4~−2.3‰,後者で−3.7~−2.3‰であった.これらの値は,浦内川に棲む淡水魚(オオクチユゴイ)の耳石δ18O(−6.7~−5.7‰)よりも大きく,また浦内湾の海水魚(ルリスズメダイ,−2.1~−1.4‰)よりも小さかった.したがって,両種は,海域や淡水域に移動せず,生涯にわたって汽水域で生活する非回遊魚であることが明らかとなった.一方,コトヒキ(5個体)の稚魚の耳石δ18Oは−3.0~−1.8‰の範囲にあり,本種の稚魚は汽水域と海域とを移動しながら生活することが示唆された.

Marine Ecology Progress Series, 593: 127–139. 2018年4月.