要約 川井田ら(2018)

琉球諸島西表島のマングローブ林に生息するフタバカクガニ Perisesarma bidens の落葉摂食量

川井田俊 ・大土直哉 ・河野裕美 ・渡邊良朗 ・佐野光彦

 

要約 沖縄県西表島浦内川のマングローブ林を調査地として,リタートラップを用いた落葉供給量の測定を2016年5~6月に4週間行なった.本調査地の主要なマングローブであるヤエヤマヒルギ Rhizophora stylosa の落葉乾重量は,1週間あたり平均3.5g/0.25㎡(年間で730g/㎡)であった.また,本調査地に優占するベンケイガニ科のフタバカクガニ Perisesarma bidens が,1)落葉を摂食・同化しているのか,2)野外でどれほどの量の落葉を摂食しているのかを,それぞれ炭素・窒素安定同位体比分析とケージング手法を用いた野外操作実験により明らかにした.安定同位体比分析の結果,本調査地のフタバカクガニは主に落葉を餌として同化していることが示唆された.また,8月に行なった野外ケージ実験によって,本種の1個体が1週間で摂食する落葉量は乾重量で平均1.5gであることが明らかとなった.これにもとづき,自然条件下での個体数密度(8個体/㎡)における摂食量を推定したところ,年間で平均626g/㎡であり,これは落葉供給量(730g/㎡)の86%を占めることがわかった.以上のことから,本調査地のフタバカクガニは落葉を摂食・同化することで,マングローブ生態系の物質循環に大きく貢献していることが示唆された.

La Mer,56: 37−47.2018年8月.