要約 Nanjo et al. (2014)

Differences in fish assemblage structure between vegetated and unvegetated microhabitats in relation to food abundance patterns in a mangrove creek

Nanjo, K., Kohno, H., Nakamura, Y., Horinouchi, M., Sano, M.

マングローブの生育するマイクロハビタットと生育しないマイクロハビタット間における魚類群集構造と餌資源量の違い

南條楠土・河野裕美・中村洋平・堀之内正博・佐野光彦

 

要約 熱帯のマングローブ域には,砂地などの平坦な水域に比べて多くの魚類が生息することが知られている.この理由のひとつとして,マングローブ域には,マングローブ由来のデトリタス,海藻類,カニ類などの小型無脊椎動物が多く,これらが魚類にとって豊富な餌資源となるためであると考えられてきた.しかし,近年,この仮説に反する研究成果が報告されており,マングローブの生育する場所に本当に多くの魚類が生息し,それらの餌も豊富に存在するかどうかはまだよくわかっていない.そこで本研究では,沖縄県西表島浦内川のマングローブ域において,魚類群集構造,餌資源量,および物理環境をマングローブの生育する河川岸部と,生育しない河川中央部の砂地の間で比較した.その結果,魚類の平均種数と個体数は河川中央部よりも岸部に多く,両者の間では種組成も大きく異なっていた.魚類を食性グループに分けてみると,底生甲殻類食魚,植食魚,および動物プランクトン食魚の種数と個体数は岸部に多かった.また,魚類の餌のうち,カニ類や海藻類などの現存量は岸部に多かったものの,動物プランクトンの量は中央部に多かった.これにより,魚類と餌の分布の関係は食性グループによって異なることがわかった.底生甲殻類食魚と植食魚が岸部に多かったのは,それらの餌が豊富であるためだと考えられた.一方,主に小型種で構成される動物プランクトン食魚が岸部に多かったのは,マングローブの根の構造が水流や捕食者に対するシェルターとして機能するためであると考えられた.

Fisheries Science, 80: 21-41. 2014年1月.