要約 Kanai et al. (2014)

Utilization patterns of estuarine and marine habitats by the halfbeak Zenarchopterus dunckeri at Iriomote Island, southern Japan, evaluated from otolith microchemistry.

Kanai T, Nanjo K, Yamane K, Amano Y, Kohno H, Watanabe Y, Sano M.

耳石微量元素組成を用いた沖縄県西表島産コモチサヨリにおける汽水域と海域との移動履歴の推定

金井貴弘・南條楠土・山根広大・天野洋典・河野裕美・渡邊良朗・佐野光彦

 

要約 コモチサヨリは西部太平洋からインド洋の熱帯・亜熱帯の汽水域に広く分布し,標準体長が13 cm程度の魚種である.日本国内では先島諸島に分布し,本種の分布北限とされている.また,本種は日本国内において2007年から準絶滅危惧種に指定されている.しかし,本種の生態については,分布や食性の断片的な知見が報告されているにすぎない.本種は,他の汽水域魚類にみられるように,海洋と河川を行き来するのか,それとも生涯,汽水域内に留まって生活するのかもわかっていない.このような現状では有効な保全策を確立することは難しいと考えられる.そこで本研究では,西表島浦内川河口域に生息する本種が汽水域と海域との間を移動するかどうかを,耳石のLi/Ca比とSr/Ca比を調べることで明らかにした.まず,塩分が異なる4つの水槽(7, 15, 25, 32 psu)を用意し,本種の稚魚を30日間飼育した.飼育終了後,成長した稚魚から耳石を取りだし,レーザー気化ICP質量分析装置(LA-ICP-MS)を用いて微量元素組成分析を行い,汽水域(0.5~30 psu)に生息する個体から得られるであろう耳石Li/Ca比とSr/Ca比の最小値と最大値を推定した.次に,野外個体を採集し,それらの耳石の核(出生時)から縁辺(採集時)までのLi/Ca比とSr/Ca比を求め,飼育から推定した値と比較した.その結果,核から縁辺までのLi/Ca比とSr/Ca比は,ほとんどの個体において汽水域の値の範囲内にあることがわかった.したがって,多くの個体は海域へ移動しないで,汽水域で生活史を完結させることが明らかとなった.ただし,一部の個体では偶発的に海に流され,その後河口汽水域に戻ってくることが認められた.

Fisheries Science, 80: 1231-1239.2014年11月.
サヨリ写真コモチサヨリ耳石写真

コモチサヨリ(左)と耳石(右)