要約 南條ら(2010)

西表島浦内川のマングローブ域における澪の魚類群集構造と環境特性

南條楠土・加納光樹・堀之内正博・佐野光彦

 

要約 沖縄県西表島の浦内川河口に位置するマングローブ域の澪(干潮時に,マングローブ林内から干潟上を流れる幅約50㎝,深さ数cm程度の水路)において,2008年9月に手網を用いて魚類を定量的に採集し,どのような魚類がどの程度の個体数で生息しているのかを明らかにした。さらに,澪の物理環境(澪幅,水深,水温,塩分,濁度,溶存酸素,底土の中央粒径値と有機物量,底土上にあるリターの被度,マングローブの支柱根や気根の被度)も測定し,澪魚類の分布パターンがどのような環境条件によって影響を受けているかについても検討した。調査を行った18本の澪から,合計で8科32種の魚類が採集され,平均個体数密度は高いところで208.3個体/㎡であった。この中で,小型のハゼ科魚類(マングローブゴマハゼ,スナゴハゼ,ミナミヒメハゼ,ノボリハゼ,カマヒレマツゲハゼなど)が種数,個体数ともに優占していた。また,マングローブゴマハゼやヤエヤマノコギリハゼなどを含む4種の希少魚類も確認された。正準対応分析の結果,魚類の個体数密度に最も大きな影響を及ぼしていた環境条件は支柱根・気根の被度であり,この被度が高い澪ほど多くの魚種で個体数密度が高くなる傾向にあった。
このように,マングローブ域の澪は,希少種を含む様々な小型魚類の重要な微細生息場のひとつであることが明らかとなった。したがって,マングローブ域において魚類の種多様性保全を行う際には,澪も含めたうえで保全すべき場所を選定する必要がある。また,現在,世界各地でマングローブの植林事業が進められているが,今後は澪などの微細生息場の創出や再生までを視野に入れた事業が求められる。

東海大学海洋研究所研究報告,31: 31-41.2010年3月.

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
マングローブ域の澪